【ニュースに惑うことなかれ】首相退陣と日経平均

2022年1月13日

菅首相が退陣されますね。
政権運営に賛否はあれど、コロナに翻弄され続け、心労は図りしれないかと思います。
ご自身の健康を考えるのであれば、個人的にはよかったかなと。

興味深かったのは、総理が退陣を発表してから日経平均が高騰したことです。
9月3日の日経平均は午前11時までは横ばいで推移していたのに、取引終了にかけ600円近く(約2%)上昇しています。

ニュースや新聞を見ると、株価上昇に多様な解釈がなされていました。
・新首相のもとで安定した政権運営を期待
・選挙対策で財政支出が増える
・「選挙は買い」のアノマリー などなど

では、これらの要因は日本株買いのシグナルなのでしょうか?
ニュースに反応することで稼げるのでしょうか?
個人的に答えはNOです。

なぜなら、数字上の根拠はなく、あくまで「解釈」「期待」に基づいているものだからです。
そして、心理的なバイアスが入り込む「解釈」「期待」ほどあてにならないものはありません。

以下、順に考察ていきます。

みんな大好き犯人捜し~ストーリーテリング~

人は「AだからBになる」といったストーリー、つまり犯人探しが大好きです。
そうすることで目の前の出来事を脳が処理しやすくなるためです。

9月3日も同様で、株価上昇にそれっぽい犯人・ストーリーを仕立てただけです。

もし本当に「首相退陣」が日経平均が2%上昇するほどポジティブなのであれば、「首相続投」に関するニュースが出たら株価にはネガティブな(少なくともニュートラルな)はずです。

現実は異なります。
以下の図は8月31日からの日経平均チャートです。
8月31日には、首相が二階幹事長ら役員人事を検討しているニュースが出ており、首相はまだやる気十分です。
しかし、株価の上昇は始まっています。
「新首相のもとで安定した政権運営を期待」など菅首相交代に関するニュースと株価の上昇を結びつけるのは無理があります。

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「選挙対策で財政支出が増える」のも新首相の特権ではありません
どのみち総選挙が迫っているので、菅首相のままでも経済対策は出されていたでしょう。

これがポジティブなサインなら、もっと早くから株価が上昇トレンドになっていたはずです。
しかし実際は、たった10日前の8月20日に日経平均は4月以降の安値(26,954円)をつけています。

結局これらのストーリーは物事をわかりやすくするための解釈であり、真実味は乏しいものです。

それ見たことか~後知恵バイアス~

株価上昇への解釈はすべて事後的になされたものです。
つまり「菅首相が退任する」「日経平均上昇」というニュースを知った後で、解釈をしているに過ぎません。
完全に後出しじゃんけんです。

過去の出来事をさも知っていた・予測していたように振る舞う心理的な特徴を後知恵バイアス(hindsight bias)といいます。

職場等で何かトラブルが起こった際、「言わんこっちゃない」「やっぱり失敗したか」などと後から知った顔で言ってくる人に出会ったことはないでしょうか?
構図はこれと同じです。

「菅首相が辞めれば日本の株価にポジティブ」などと事前に予測していたのであればすごいですが、9月3日の解釈は完全に後知恵に過ぎません。

もしこの日株価が下がっていたらどうなっていたでしょう?
「政局の混乱から先行きの不透明さが増した」などと、もっともらしい後付け解釈がされて終わりです。

解釈は人それぞれ~美人コンテスト

仮に菅首相の退陣が株価に何らかの影響を持っていたとします。
しかし、それが株価にポジティブなのかネガティブなのかは事前にはわかりません。

ニュースの捉え方は人それぞれ異なるからです。
以下の表から「経済対策」の場合を考えてみましょう。

AさんBさんCさん
解釈積極的な経済対策が実施される経済対策が財政を悪化させる財政の悪化が金利の上昇を招く
株価への反応××

「経済対策」といえば株価にポジティブな印象を受けますが、受け取り方は人それぞれ。
株を買ったAさんは損をしてしまいます。

ニュースで儲けるには、多数派がどう解釈するかを正確に予想し勝ち馬に乗る必要があります。
ケインズが言うところの美人コンテストです。

いうまでもなく、他社がどのような解釈をするか正確に予測することは不可能です。
株式市場には数えきれない投資家がいるのですから。

そして個人の解釈も、その時に状況や感情に大きく左右される不確かなものです。

美人コンテスト
ミスコンの勝者を当てるには、自分の好みの女性を選ぶのではなく、多数派が好みそうな女性を選ぶ必要があること。

まとめ

株式市場と直接関係のないニュースに乗っかったり、それで株価を予測しようとしても不可能です。
結局は「株価の上下」と「ニュース」を見た後で、それっぽいストーリーを作っているだけだからです。

新聞記者やアナリストを責めているわけではありません。
彼らは解釈を提示するのが仕事であり、本音では「株価上昇の理由はわからない」とは思っていても口には出せません。

慎重な投資家の方々は、目先のニュースに捉われず、自身の投資スタイルを淡々と維持するのが賢明です。