【利上げの是非?】利上げ≠インフレ抑制
8月26日。
ジャクソンホール会議でのパウエル議長のスピーチが株価の暴落をもたらしました。
曰く「インフレは経済の最大の敵。インフレ抑制のためなら何だってする!」
スピーチをわずか10分で切り上げ余計な言質を取らせず、金融引締めを引き続ける姿勢を明確にしました。
これに反対するのがノーベル経済学者のJ・スティグリッツ。
「過度な利上げ・引締めがインフレを悪化」させるというのです。
「FRBの引締めが遅い」との声が大きい中、興味深い主張です。
https://www.cnbc.com/2022/09/02/joseph-stiglitz-thinks-further-fed-rate-hikes-could-make-inflation-worse.html(CNBCより)
目次
利上げがインフレを悪化させる?
スティグリッツが過度な引締めを批判する理由は以下3点。
①供給制約の悪化
②企業のステルス値上げ
③住宅市場の悪化
順に検討してみます。
供給制約の悪化
ウクライナ戦争やコロナによる供給制限がインフレの原因の一つであることは誰もが認めるところ。
この状況で利上げを行うとどうなるか?
企業が設備投資を絞り、供給力がさらに減退。
物不足でインフレが悪化します。
企業のステルス値上げ
インフレが過度に喧伝されると、企業はそれを利用します。
インフレを言い訳に原料価格の上昇を超える値上げを行い、インフレが悪化します。
スティグリッツは富の再分配を重視し、企業に厳しいスタンス。
抜け目のない企業はインフレに苦しむふりをし、ステルス値上げにより利益を得ると批判します。
必要以上の価格転嫁により苦しむのは一般市民です。
住宅市場の悪化
金利が上がると、家賃が上がります。
家主の借り入れコストが上昇するからです。
家賃はインフレ指標の大きな構成要素の一つ。
家賃が高止まりすれば、インフレは続きます。
一般論で言えば、利上げにより不動産価格は下落し、需要の減退に伴い家賃もいずれ下落するでしょう。
しかし「利上げのペース」が「住宅価格の下落ペース」を上回ると、家賃の値上げが先に市民を襲います。
また、家を買いたい人も高い住宅ローン金利で高い家を買わないといけない状況が当面続きます。
特に家を持たない若年層の懐を痛め、世代間格差を拡大するとスティグリッツは批判します。
異なる視点により「ハーディング」回避
「インフレはピークアウトした」との論が最近は多数派です。
アナリスト等もインフレよりFedの引締めによる経済の停滞、いわゆる「オーバーキル」を警戒しています。
これらの論は「Fedの引締め=インフレ鈍化」を前提としています。
スティグリッツか多数派かどちらが正しいかは結果を見ないとわかりません。
しかし、多数派の前提を疑う視点を提供してくれる点で、スティグリッツの批判は価値があると思います。
多数派の主張はニュースなどで何度も繰り返され、真実のように聞こえてしまうものなので。