大規模金融緩和と”日本人の戦い方”
藤井非三四氏さんの『太平洋戦争史に学ぶ日本人の戦い方』を読了。
最後の一文だけでも読む価値がありました。以下抜粋です
日本人は何かと戦う時、目的と手段を取り違えたり、ただ戦うことだけを目的としてしまうからだ。
藤井非三四『太平洋戦争史に学ぶ日本人の戦い方』P264
そして目的を達成したかどうかは問題ではなく、「ここまでやった、やるだけやった」という自己満足感を得られればそれでよいわけだ。
色々と頭を働かせて努力しているようには見えるが、実のところ、精一杯やったという虚飾に満ちた空虚な満足感のためということになるらしい。
これが日本人の戦い方の根底に横たわる行動原理なのだろう。
ここで思い出されたのは黒田日銀の金融政策。
ちょうど7/31に10年前の政策会合の議事録が公表され、黒田総裁の退任会見も含めまさにこの文の通りだと。
目次
目的と手段の取り違え
黒田日銀は最初に「異次元の金融緩和で2年以内に2%のインフレ達成」と威勢の良い目標をぶち上げました。
国債大量購入でマネタリーベースを2倍に、さらにETFを通じて株式まで購入。
官製市場の始まりです。
しかし、2%のインフレはいつまでたっても達成されず。
円安と資源高により、10年たってようやく超えるありさま。
日銀の役割は「物価の安定」。
2%のインフレ目標は、物価・経済が安定するための手段であり、目的ではありません。
本来なら2年経った時に、目標の妥当性含め検証すべきでした。
しかし、手段と目的が逆転し、2%のインフレ目標が金科玉条に。
見直すどころか、「緩和が足りない」と言わんばかりに市場にマネーをばらまき続けました。
やるだけやった感
黒田総裁は退任会見で自身が主導した金融緩和のポジティブな面ばかり強調。
「やるだけやった感」が満載でした。
目標を達成できていないのだから、大規模緩和にも反省点があるはずです。
それを素直に検証し、説明するのが総裁としての最後の仕事だと思います。
しかし、「(2%のインフレが)安定的な実現まで至らなかったことは残念だ」「デフレ慣行が根強く残っていた」などとまるで人ごと。
一仕事終え居酒屋に行くサラリーマンのようであまりにも無責任です。
あげく「退任後はどこかの大学で客員教授でも」と堂々と天下り宣言。
自分はやるだけやったからと、自己満足を得られて十分ということでしょうか。
結論:”自己満”でなく”検証と反省”を
総裁だけの責任ではありませんが、黒田日銀の動きは藤井氏が言及した日本人の悪い所を凝縮しているよう。
デフレマインドを払拭する目的で、「超金融緩和による2%のインフレ」という手段を採用したはず。
しかし、黒田日銀の結論は目的未達の原因を”根強いデフレマインド”に求めるお粗末なもの。
「デフレマインドが払拭できなかったのは、デフレマインドが強かったからだ!」と。
小泉進次郎構文と大差ありません。
手段が自己目的化し柔軟な修正ができないこと。
結果が悪くても「頑張ったから仕方ない」と自己満足し、反省を怠ること。
自身もそうならないよう注意しなければ。
植田日銀の包括的検証は、黒田日銀の悪い面にも正面から向き合ってもらいたいものです。