【書評】ブラック・スワン-ナシーム・N・タレブ著

2000年代の金融危機を予測したといわれる人は結構たくさんいます。
ニコラス・タレブもその一人。

データを過信し、例外=ブラックスワンを無視する人の性質をわかりやすく説明しています。

一方で、特徴的な言い回しも多く、途中で脱落してしまう人も多いとのこと。
本稿では、エッセンスだけまとめたいと思います。

不透明の三つ子

人がブラックスワンの餌食になる三つの要素。

要約すると「過去のデータを一般化し未来に当てはめようとする」ことです。

わかったという幻想=Over Confidence

私たちはすぐに「わかった!」と物事を一般化しがちです。

投資で言えば、「過去のデータからすると、この株がPER10倍は割安!」とか。
そして、自分の調査・分析に疑いを持たず、トラップの餌食に。

しかし、過去は過去。
それが未来も当てはまるかは誰にもわかりません。

「わかったつもり」の幻想は、”例外”が一回起こるだけで打ち砕かれます。

過去のデータの過大評価=Availability

ではなぜ、過去のデータを重視し、過信するのか?
データを得るのにかかるコストを回収しようとするからです。

例えば、投資関連の雑誌や本を読むにはお金がかかり、無料のブログでも時間を喰います。

コストをかけたものについて、私たちはより大きな価値があると思い込みます。

コストをかけるほど、データへの自信は深まっていきます。
残念ながら「コスト≠データの信頼性」ではないため、自信は間違った方向に。

経済学者や機関投資家といったプロほど自身の調査分析にのめりこみ、金融危機等にこっぴどくやられます。
なぜか?調査分析にコストをかけているからです。

振り返った時の歪み=Hindsight

加えて、過去のデータに依存するにも関わらず、過去の事実すら正確にとらえることができません。
タレブのいう「講釈の歪み」です。

過去のをありのまま直視せず、自分に都合の良いように解釈してしまいます。

例えば・・・
市場低迷時:さらなる下落にビビって株を買えず
市場反発時:「売られ過ぎと思ってた」と将来が予測できていたかのように語る(実際に買ってないのに!)

コロナショックも同じです。
振り返ってみれば、コロナ禍での株価急落は買いのチャンスでした。

しかし、2020年の3月に株を買い漁ったた人がどの程度いたことやら。

実際の世界は?

物事に大きく影響するのは、起こりやすそうなことではなく、めったに起こらない例外です。
”例外”と無視できないほどに。

漸進?いやいやジャンプでしょ

データに基づく分析は、世界が経験則の範囲内で動くことを前提とし、確率論で物事を測ります。

確率が高いものを中心に漸進的に物事が動く世界です。
確率が低い事象は”例外”として無視されます。

しかし、実際に世界を大きく動かすのはこの”例外”です。

例えば、米国株式市場のリターン。
50年間の平均リターンは8%。
市場平均のインデックスファンドに1$投資すれば50年後には47$になる計算です。素晴らしい!

しかし、株価が最も上昇した10日間を逃すと、リターンは半分になります。
50年という長期投資においても、リターンはたった10日の”例外”に大きく依存しているのです。

”例外”として無視できるものではありません。

一発KOのリスク

ブラックスワンは高い殺傷能力を持ちます。

例えば、リーマンショックは金融機関が何十年もかけて積み上げた利益を一瞬で吹き飛ばしました。

タレブはカジノ経営を例に出します。

あるカジノが経営危機に陥った。
その理由は、客が大穴を当てたからではなく、経営者の息子が誘拐され莫大な身代金を要求されたことだと。

戦争や金融危機など、常識やデータでは測れないことが世界を一変させることは多々起こります。
”例外”として無視すると殺されかねません。

もちろん確率では測れません。

明日もわからないのに、なぜ20年後がわかるのか

しかしデータへの依存や予測を止めることができません。
「わかったつもり」になっているのが心地良いから。

”例外”は確率で計算するよりも高頻度で発生し、わかったつもりになっている我々に鉄槌を下します。
確率で計れば、リーマンショック並みの市場の動揺は数億年レベルでしか発生しないはずです。

実際には、高々200年程度の株式市場の歴史で、同様の変動は何度も発生しています。

データを基に何年も先の株価見通しを滔滔と語るアナリストの正確さは、
ノストラダムスの予言と大差ないということです。

タレブのアプローチ

タレブは確率論に基づく投資や経済理論を徹底的にこき下ろします。

そんな彼が推奨するのが「超安全資産と超ハイリスクのバーベルアプローチ」。

例えば・・・
資産の90%は現金や国債等の超安全資産に、残りの10%であらんかぎりのリスクをとるという手法です。
加えて10%の方も、複数の賭けに少額ずつベッドする分散を推奨します。

一発ホームランを狙い、失敗しても90%の資産が残るからセーフという極端な方法。
凡人には厳しい気が・・・

所感

タレブが推奨するバーベルアプローチを実践するのは困難かと。

「10%であらんかぎりのリスクを」と言いますが、投資対象に何を選ぶのかまでは教えてくれません。
結局ホームランを飛ばす可能性のあるものを見極める力が必要です。

それが、未公開株なのか仮想通貨なのか、はたまたもっと怪しい投資先なのか。
そして投資対象がバズらなければ確実な10%の損失です。


あと本書を買うなら上巻だけでよいですね。
下巻は、脚注や引用元の紹介が半分を占めており、読む部分は少なめ。
内容も上巻の知識を基に、確率論を信奉する学者などをこき下ろすもの。