【書評】だからフェイクにだまされる-石川幹人著

フェイクニュースがはびこる今日この頃。

突飛なフェイクにも騙されてしまう人間の心理を、
生物学的な進化までさかのぼって解説してくれる良著です。

お勧めポイント

1.単純な人間心理を超えたアプローチ

行動経済学がブームなのか、心理に関する本をよく見かけます。
しかし、「損失回避」や「自信過剰」など、心理バイアスの説明の焼き直しにとどまる本も見受けられます。

この本が面白かったのは、もう一段階進み、人間の進化と心理を紐づけていること。

例えば、フェイクに騙される心理は、人間が狩猟生活を開始した時までさかのぼるものだと説きます。
小さな集団での狩猟活動は、集団内での信頼感が命。

よって、他者を疑う力よりも信じる力が進化し、それが集団維持の面でも合理的だったというのです。
「信じることが第一」で進化してきたのなら、フェイクに引っかかるのも無理はないですね。

2.フェイクを馬鹿にしない

フェイクニュースがはびこる一方、それを「反知性的だ」とあざけるような論評も見かけます。

眉唾の陰謀論を馬鹿にするのは簡単ですが、それでは何も解決しません。
「陰謀論を信じる人」と「馬鹿にする人」の分断を助長するだけです。

本書は、フェイクが人類の進化ではたしてきたポジティブな役割も紹介しています。
例えばコミュニティの結束力を高め、集団の効率性を高めてきたことなど。

フェイクの危険性を示しつつ、人を馬鹿にしないスタンスは非常に好感が持てました。

投資の観点から見れば・・・

投資心理の参考になる部分も多々ありました。

損失回避バイアス

何よりも損失の回避を優先するバイアスです。
損失から受ける絶望感が、利得からくる幸福感をはるかに上回るというものです。

このため、株価が下がっても損切できず、株価が上がった場合は早々に利益を確定してしまいます。
損失局面では損切できずリスクテイカーに、含み益局面では過度に慎重になってしまいます。

この心理も狩猟・農耕生活時代の生存本能に由来するもの。

生活が安定している(含み益局面)場合、リスクをとってまで獲物を求めず、安定を維持しようとします。
これが農業や狩猟活動の発展につながります。

一方、生死の危機に陥った時(損失局面)では、生存のため一か八かの博打に出ます。
猛獣に囲まれた際、恐怖を捨てて立ち向かうイメージです。

現代では、社会保障も発展し、多少のリスクをとっても生死を左右する局面は早々に訪れません。
これがリスクテイカーに有利な環境を作り出します。

株価の下げ局面でも、中々リスクを取れず悶々としている自分にとっては痛いところ。

確証バイアス

「自分が正しい」ことの証拠を集めようとする心理です。

自分が正しさ・有能さを証明するのは、小さな集団に帰属する上では不可欠です。
それが他者からの信頼につながるからです。

現代社会はネットを通じて、集団が無限に拡大しました。
自分と同じ意見にアクセスするのも容易になり、SNS等のサジェスチョン機能がそれを助長します。

一方、拡大を続ける集団の中では、自分の正しさを証明し帰属意識を得るのもまた難しくなります。
そこで耳目を引き自己承認欲求を満たすための極論(フェイク)が登場します。

自分の意見の正しさの根拠が、極端なフェイクであれば悲劇的です。

危険なフェイクを避けるには、確率や反証を得て、考えを精査することが必要です。
投資の場面では、自分が買った株について、ポジティブな評価のみに目を向けないよう注意したいところです。

まとめ

社会の形態が変わっても、人間に生来備わった本質は変わらないもの。
それを利用するデマや誇張表現には気を付けたいところです。

周囲に流されず、立ち止まって反証を探すことが失敗の回避に役立つというのは重要なこと。
失敗の回避を求めすぎると「損失回避バイアス」の餌食になってしまいますが・・